遠くへ
幼い頃、すごく遠くへ行った。
車の窓にくっついて流れる景色はすごく新鮮で、見逃さぬように必死で目で追いかけてたワクワク。
それは、車で15分の長旅。
時間がゆっくり流れてた気がした。
あの感覚、最近感じた事あったかな…?
小学の時、友達とすごく遠くへ行った。
バスを待つドキドキ時間。乗車する緊張感、バスの匂い、エンジンの音僕らは間違いなく旅へ出てた。
それは、バスで30分の長旅。
どこもかしこもにぎわっていた昭和の香り。
あの感覚、最近感じた事あったかな…?
高校で生まれて初めて家を離れた。
これから住む自分の部屋を何回も見回したっけ。
その日の夜はなかなか寝つけなくて、グッと胸が締め付けられたのを憶えてる。
携帯電話なんか無い時代。
いろんな色、いろんなサイズの靴が押し込められた靴棚のある玄関に1台の公衆電話、鳴る度に人の気配が嬉しくて安心した。
遠く両親に見守られながら、間違いなく旅へ出てた。
それは、電車で1時間の長旅。
周りには常に友達がいてくれた、何度助けられたかわからない。
あの感覚、最近感じた事あったかな…?
卒後、故郷を離れて上京した。
新幹線という速さには僕の目はもう追いつくことはなく、一歩踏み出したその場所は、昭和の香りの影すら残っていなかった。
ずいぶん遠いところまできた。
ここでなにができる?これからどんな生活が始まるんだ?
それは、新幹線で4時間30分の長旅。
4年後、僕は自分を見失いかけ、周りがみえなくなり、ボロボロになって帰郷した。
毎日の生活に疲れてまでは生きたくなかった、生きれなかった。
自分のライフスタイルというものをなんとか見つけ出したかった。
白旗を降ったものの、おかげで故郷の良さを改めて知ることができた気がする。
やはりここは落ち着く、素直な自分がいる、ありのまんまの自分がいる。
以前、この地にいたことを思い出したかのように、この場所はすんなりと僕を受け入れてくれた。
2002年。
少しポカポカし始めたその場所に、ほんのりと懐かしい風が吹いた。
それは、23年間の長旅だった。